古代は未知の世界だから
「Jammer君。君たちの旅は正しい歴史を知るのにも役立っているんだ。」
埼玉県戸田市の佐藤博士の分室で、博士はコーヒーを飲みながら話す。
「歴史というのは勝者の書いた文章だから、必ずしも正しいというわけではない。」
Jammerはきょとんとする。いわゆる専門外である。
博士は続ける。
「特に古代は遺跡によって想像する部分が多い。日本には古事記と日本書紀しかないからね。」
それなら聞いたことがある。
まぁJammerは日本武尊と、素戔嗚尊の区別がつかないが・・・・。
「また、古代に行ってくれないか?」
佐藤博士のの声掛けにJammerは答える。
「もちろんどこでも。」
そして明後日にJam-Junkiesのメンバーを連れてタイムトラベルする約束をした。
タイムトラベルの先は暗闇
今回タイムトラベルで降り立った場所は古代だということは聞いている。
しかしこう暗くては何が何だかわからない。

「なんで真っ暗なんだよ!昼に到着するんじゃなかったのか?」
文句を言うのは大体エドと決まっている。
楽器ケースを抱えて少し歩くと松明の光が揺れている。
「あそこ人がいない?話しかけてみようか?なにかわかるかもしれない。」
Jammerはそそくさと前を歩いていく。

この男は初対面でも全くものおじしない。図々しい?
いや、人なつっこい性格といっておけば聞こえはいいだろう。
「あの、何かあったんですか?この暗闇について教えてくれませんか?
そこには地味でおとなしそうな一人の巫女がいた。

巫女はJammerたちの姿に少し驚いたような表情をした。
ただ、状況を話す分には問題ないと判断したようだ。
「天照様が岩戸にお隠れになって、それからこの世が暗闇になったのです。」
「その女神がいないと暗闇になるのですか?」
「はい、太陽神ですから。」
横からエドが口を挟む。
「おい、あれを見ろ!皆既日食だよこりゃ。時間がたてば終わるよ。」

Jammerは慌ててエドの口をふさぐ。
「彼女に聞こえる!この時代に合わせるんだ!」
Jammerは彼女の方を向きなおして尋ねる。
「それでどうにかなりそうなの?」
うつむいて巫女は首を左右に振る。
「もう祈りの舞いをするしかないと思います。」
巫女の説明では、祈りの舞は肌を露出して八百万の神々を満足させる必要があるらしい。
巫女の身体は純粋であり、神への願い事の際にはそれを披露する必要があるらしい。
Jammerは首をかしげて巫女に尋ねる。
「それを君がやるの?」
彼女には悪い予兆を感じたり、未来のイメージを画像として認識したりという特別な力があるそうである。
神との交信の時には痙攣を起こして神託を受ける。
現代であれば統合失調症や発達障害、てんかんなどと表現されるものだろう。
それゆえに祈りの舞は彼女の役目であると説明された。
「それしかありません・・・。」
この地味な巫女が肌を露出させて舞い踊る姿はJammerには想像しにくかった。
それに本心では嫌がっているようにも見える。
彼女は自分の身体が、心が人と違うことに劣等感がある。
それゆえの地味さ。
この上男たちの視線にさらされて一人で戦うなんて理不尽だとJammerは思った。
「じゃあ俺たちに伴奏させてよ!これ楽器なんだ。」
巫女は大きく目を見開いて首を振る。
「まかせて。」
任せられるわけがない。初対面の得体のしれないいでたちの者たちに・・・・。
Jammerは人懐っこい顔でにこりと笑う。
「それじゃこうしよう。俺の名前はジャマー。」
古代において名前を名乗ることは呪詛で相手に操られるリスクがある行為である。
「もしもうまくいかなかったら呪詛で俺に呪いをかければいい。」と男は言う。
「大丈夫。もし契約するなら君の名を教えてくれればいい。」
少し迷った表情を見せるが、巫女は小さな声で答えた。
「天鈿女命と申します。」
Jammerはまたにこりと笑う。
「ウズメちゃんだね。俺たちに任せて。ね!よろしく!」
よく言えば人懐っこい男である・・・・。
岩戸の前で
天照が引きこもった岩戸は渓谷の間にあった。
巫女が舞うことはすでに連絡済みで八百万の神々もどこからか集まり始める。
まぁ正直人間にしか見えないが神々ということにしておこう。
ドラムのヘンドリックスがいつものようにドローンのリモコンを押す。
タイムマシンからドラムセットや発電機、アンプなどがGPSで空輸される佐藤博士の最新マシンである。
Jam-Junkiesの準備は大体整ったが、肝心のウズメがまだ巫女の衣装のままでガタガタ震えている。
Jammerは言葉のわからない日本に移住した子供のころを思い出した。
周囲が何を言っているのかわからない。
まわりの声がすべて悪口に聞こえる。
そして常に悪い意味で注目されて監視される。
だからこそJammerは人を信じるようにした。
自分からフレンドリーに話しかけるようにした。
それができたのは音楽という言語の助けを借りられたからという背景もある。
今のウズメは事情は違うが特殊な能力ゆえに常に悪い注目を浴びている。
「こんな時はフレンドリーに音楽を楽しむのがいいよね。」
Jammerは独り言を言う。
そしてギターのチューニングをしながらさりげなくウズメに近づく。
「俺はよくわからないけどそんなに脱がなくてもいいんじゃないかな?
俺たちの演奏はかなりいいから確実に盛り上がる。保証する。」
そして耳元でふざける。
「俺がやきもち焼いちゃうでしょ?だからやめて(笑)」
初めて巫女が笑った。
「おかしな人ですね。」
一転真剣な目つきになる巫女。
「しっかり舞わせていただきます!」
主役が戦闘モードに入ったようだ・・・・
Jammerがスパニッシュなフレーズをさらりと弾く。
渓谷の岩の間に音が反響して強烈なリバーブがかかる。
あの曲ねとJam-Junkiesが目配せをする。
即興演奏が彼らの売りである。
だいたい軽い打ち合わせでガチャガチャ演奏を始めるのだ。
ジョージのカッティングにあわせてウズメが舞い始める。
全くの別人・・・・八百万の神々も無言になる美しさ・・・・。

Junkiesのエキゾチックな演奏が進むにつれウズメの舞にも熱が入る。
Jammerはクリアトーンでスパニッシュでエロチックなフレーズをつま弾く。
音で実際の露出よりもセクシーさを出す作戦。
ベースのエドは普段は余計なことばかり言うが、こういう時の察知能力は異様に高い。
ベースラインがうなる。
身体をくねらせるウズメ・・・。
当然観衆は声を上げ手拍子を始める。
冷やかしのような男たちの声が飛び交う。
当初の目的を忘れたかのような盛り上がりだ・・・・。
その時岩戸の扉が少し開いて光が漏れだす・・・・。

実はJankiesは太陽の様子をうかがいながら曲をリピートしていた。
しかしこれは内緒である。
華やかな舞のあと
天照大神
黄色い歓声を岩戸の中で耳にした天照は不安になったようだ。
絶対的な美には自信があった。
自分以外に大衆をひきつける者はいないだろうと予想しての引きこもりだったが、
岩戸の外の歓声にが気になり少し扉をあけてしまった・・・・。
途端に屈強な男たちが扉に指を差し入れ抑え込まれる。
結果あっけなく岩戸は開放された。
この騒ぎの原因を作ったのは天鈿女命と言うではないか。
あの地味な巫女が・・・・。
天照は彼女について少し考えを改めねばと思った。
祭りの後のなんとやら
これだけの大仕事を成し遂げたウズメであるから、すっかり八百万の神々に囲まれてしまった。
あわよくば求婚をと迫る輩までいる・・・。
Jammerは後片付けをしながらウズメの方を見る。
目が合った・・・・。
Jammerは頭の上方に大きな輪を使って〇を表現した。
古代で通じるかはわからない。
ウズメはぺこりと頭を下げJunkiesの方に向かって大きな〇のサインを送る。
そしてJammerに向かって手を振る。
Jammerも手を振り返した。
まだ言葉は交わしていないが、情が移らないうちにこの時代から帰るのがいいだろう。
タイムマシンの中で考える
どうしてこのタイミングで天照が岩戸に引きこもったのかは疑問が残る。
たまたま弟とのトラブルが、皆既日食と重なったのだろうか?
歴史にはまだまだ分からないことが多い。
人間も古代には色々な力を持っていたのかもしれない。
本当に光を操ったり、未来が見えたり・・・・。
それが進化の過程でどんどん平均化されていったのかもしれない。
神と呼ばれる存在についても改めて考える必要があるのかもしれない。
博士の言う通りタイムトラベルには意義があるのかもしれないが、
今のところ内緒という矛盾した状態でもある。
ただ、究極の地味っ子「ウズメ」のパワーに触れられて楽しかったと回想する。

